視力はこう読む

眼鏡の処方箋とかコンタクトの処方箋をもらうと意味不明の数字と略号が並んでいると思います。そこで視力の読み方を書いてみましょう。例として一人の人の右目の視力を図で示します。文字でなく図にしたのは変な記号があるからです。
right vision, left vision

こんな風に視力を書きます。

(a) は正式な書き方、とされていますが、変な記号もあるし必ずこう書くとは限りません。(この記号は外字が必要だし) (b)は略してすっきり書いたやりかたです。RV= 0.1 (1.0 S -1.0 C-0.5 A 90) これでも通じます。図ではわかりやすく下線を引いて区切りました。
略号の意味

RV: 右眼視力。英語でright vision。VDとラテン語で書く人もいます。

LV: 左眼視力。英語left vision.。VSと書くけど筆者はラテン語嫌いなので省略。

S: Sphericalの略。球面レンズのこと。普通カメラのレンズは球面に近いですね。(収差補正のために微妙に非球面にしてありますが)

=(Cの左の変な記号)これはレンズの結合をあわせる意味だそうですが呼び名がわかりません。唇みたいな記号。いったい何でしょうね?(眼科医になっても知らないんですよ。)

C: Cylindricalの略。円柱レンズのこと。乱視をなおすのはこの円柱レンズです。

D: これは単位です。diopter.ジオプタと呼んでいます。1Dのレンズは平行光線を1m先に集めます。焦点距離100cmですね。2Dは50cm。4Dなら25cm。

A: これは軸の意味でaxis。乱視の軸の角度を0-180度の単位で書きます。

他、PD, BC, diaについては下の方でメガネとコンタクトについて解説します。

では項目ごとに解読しましょう。
right vision, left vision

裸眼視力

まず、0.1。これが裸眼視力です。これは簡単にはかれる。眼鏡なしで視力計
に向かって片目ではかればすぐできます。普通は0.01-2.0までは数字で書いて、それ以下はC.F.(指数弁。指の数は見える)とかH.M.(手動弁。手の動きがなんとかわかる)とか書きます。

矯正視力

次に1.0。かっこの中に入っています。これが矯正視力。これは少し測る側に技術がいります。つまりその患者にとって一番視力が出るレンズをこれか、それか、といろいろ試して選ぶ手順を踏んだあとで、この「1.0」というのがわかります。人によって1.5だったり0.7だったりします。計る人がへただったり、明るさとかの条件が悪かったり、患者に「気力」がない時にも矯正視力は低くでることがあります。以下のS, C, …がみな( )にはいっているのは「こういうレンズの条件で視力が1.0出ましたよ」というまとめの意味ですね。

じゃあ矯正視力が低い人は何なのか?つまり近視遠視乱視だけではない、さらに別の原因で視力が低くなっているという状態ですね。そう、こういう状態では眼の病気だとか、不整乱視(不規則な角膜のデコボコなど)とか眼の神経の異常とか、脳外科で扱う病気だとか、そういうのを考えたくなります。近視遠視乱視をまとめて「屈折異常」と呼んでいますから、眼科では「視力が低いのは屈折異常か、それ以外の疾患か」をきっちり区別します。

right vision, left vision

S=球面度数

そして「ジオプタ」(D)

さて、Sの次の-1.0。

****これが肝心なところです。*****

これが近視の度数。これがマイナスなのは、「凹レンズでよい視力が出た」ということ。近視が強い人はここが-3.0, -5.5とか, -9.0とかいう数字になります。(だいたい0.25とか0.5きざみ。それ以上こまかく測定してもあまり視力に差がでません)たいてい近視の人の度数は-1D(ジオプタ)から-10Dくらいじゃないでしょうか?ごくたまに-15Dとかいう人もいます。近視が強くなると、ここの数字が-1から-2, -3となってきます。(数学にうるさい人なら「絶対値が大きくなる」と呼びますね)若い人で眼鏡を作っていて、去年の視力のSの数字より今年のSの数字がマイナス寄りになっていたら「近視がすすんだ」と考えてもいいでしょう。裸眼視力よりも、このSの数字がミソです。
マイナス3ジオプタ(-3D)くらいまでが軽い近視、-6Dから-9Dが中くらい、-9Dより強いのが強い近視と考えてください。-6Dを超えるとたいていメガネではみえづらくてコンタクトレンズが必要になります。

遠視の人はここでSの次にプラスの数字がきます。+1.0, +3.0などなど。プラスは凸レンズのことです。
つまり遠視用の眼鏡は日光を集めて紙がこがせます。近視用のめがねでは日光を集められません。
プラス2ジオプタ(+2D)のレンズなら焦点距離 1/2=0.5mで50cmで、+3Dのレンズなら焦点距離33cmです。
「遠視」は合焦範囲(焦点の合う範囲)全体が遠方にずれていることで、「老眼」は合焦範囲がせばまることですが、
結果として遠視のメガネと老眼鏡はどちらも凸レンズを使います。

C=円柱度数

Cの次の数字。これが乱視の数字です。さっきまでの近視遠視のレンズはたても横も関係ないけど、乱視用のレンズ、「円柱レンズ」は軸があるから向きが大切です。この例では「マイナス0.5のレンズで90度の軸!」という意味になります。乱視の度数の入った眼鏡を持ってぐるぐる回しながら活字を読んでみると、その向きでちょっとだけ歪むのがわかると思います。たて方向とよこ方向で拡大率が違うからですね。
乱視といっても丸が四角に見えるわけじゃありません。ようするに(世の中の乱視の人の99%は)縦の線と横の線のぼやけかたが違う、というだけです。
球面レンズと円柱レンズ

view with cylindrical lens

この図で(a)は球面の凸レンズ、(b)は球面の凹レンズ、(c)は円柱の凹レンズで軸が90度方向つまり上下方向、(d)は同じ円柱の凹レンズで軸を横にしたものです。円柱レンズは軸と直角な方向だけに縮んで見えるのがわかるでしょうか? 円柱の凸レンズの形はカマボコ状で、円柱の凹レンズの形はカマボコの逆、しいていえば雨どいのような形(スノーボードで滑るハーフパイプともいえますが)をしています。さあ、手元に眼鏡のある人、実験してみよう!乱視度数が入っていたら、グルグル回してみましょうね。

解読作業おわり!

以上で、視力の書き方、説明おわりです。すると、この例の場合は、「裸眼視力は0.1で、矯正視力は1.0で、-1.0の球面度数のレンズと、-0.5ジオプタの円柱度数のレンズを90度の軸で使った場合に最もよく見える」ということになります。「よく見える」のは5mの距離の視力表が見えるということですが、ここでは老眼鏡などの50cm視力や30cm視力は省略しますね。

眼鏡とコンタクト

さて眼鏡とコンタクトです。この処方箋には視力以外の項目も書いてあります。

「私のコンタクトのケースには両目とも-4.0と書いてあるけど、じゃあ眼鏡も-4.0ジオプタで作ったらいいんですか?」これは残念ながら違います。コンタクトは角膜とコンタクトの間に入ってくる涙の厚さもレンズとしてはたらく(涙が空気と屈折率が違うから)ので、コンタクトと眼鏡の度数は少しずれますし、その「ずれ」も人によってまちまちです。しかも一人の人でもコンタクトのブランドやベースカーブによって「ずれ」が変わります。ベースカーブは下の項目を参照してください。そのうえコンタクトとめがねは角膜からの距離が違いますのでこれまたレンズ度数は補正が必要になります。いろいろ理屈はありますが眼鏡店ではこういうむずかしい計算を裏方でいろいろやってくれているわけですよ。

メガネ独自の記号”PD”

“PD”はpupil distanceで瞳孔間距離です。これを測ってメガネの左右のレンズの離れ具合を決めます。顕微鏡をのぞくときに左右の眼に合わせるようにふたつの筒を近づけたりしますね?あの原理です。実は遠方を見るときと手元を見るときはPDも変わるんですよ。近くを見ると軽い「寄り目」になるんですね。遠近両用メガネ、てのはこういうたくさんの項目をしっかり検査で確かめて作るわけですから、当然検査をする人の技術の差が出てきます。安売りのメガネで老眼鏡を急いで作ったけど目が疲れる、という経験はありませんか?

コンタクト独自のBC, Dia, Size, P

●BC: base curve、日本語でもベースカーブと呼びますが、コンタクトが角膜に接している面の曲率半径です。単位mm。これが変わるとハードレンズの場合装着感(ゴロゴロする、しない)が全然違います。「急いでハードレンズ作ったんだけど眼につけると痛くてたまらん!」という場合には「ベースカーブが眼に合ってなかった」というのが原因のことがよくありますねえ。7.85mmと書いたり785と書いたりします。

●Dia, Diameter:(またはsize) 直径のことです。単位mmたいていコンタクトの銘柄が決まればこの直径もきまりますが、ソフトレンズで14.0mmとか14.2mmだったりします。

●P, Power: コンタクトの場合は球面度数を単にpowerと呼ぶことが多いのでP: -4.5とあればS球面度数 -4.5と考えていいでしょう。

●例えばO2ハードレンズで785/-4.00/8.8とあればBCベースカーブが7.85mmで、spherical 球面度数が-4.00, dia 直径が8.8mmということになります。BC=7.85, P=-4.00, Dia=8.8とか書くこともあります。

視力を計る時の機械

眼鏡店でも眼科でもよく置いてある通称「オートレフ」という機械、これは上に書いた近視遠視乱視の、つまり屈折異常の度数をすばやく測定する機械です。たいていこれに顔をくっつけて眼の度数を数秒ではかり、それに合わせて視力測定をしている、というのが眼科、とか眼鏡店での風景です。

子供の視力

途中にも書きましたが、患者の側に視力をはかる「気力」がない時は矯正視力は低くでたりまったく測れなかったりします。年齢の低い3才から6才くらいの子供の場合は、視力を測る側に非常に高いテクニックとスピードが要求されます。痴呆を持った大人の場合もそうです。だから子供の視力が「この病院で測って0.5だったのにあの病院だと1.2も出た」というのはよくあることです。子供の視力がうまく出た時は看護婦とか検査員が優秀だった、と思っていいでしょう。

お役にたちましたか?このあたりを勉強してから眼鏡屋さんにいくと「おお!よくわかってらっしゃるお客さん」と喜ばれるかもしれません。眼科で自分の視力についてたずねたいときは「近視はSで何ジオプターでしたか?」とかきくと、マニアックな響きがして眼科医もきっちり答えてくれる、と思います。……ええ、少なくとも僕ならそういう人にはよろこんでしっかり説明しますよ。

まとめ

以上、だらだら書いてきましたが、ポイントはこうです。

●裸眼視力だけで一喜一憂してもしょうがない

●近視の度数は主にSの次のマイナス数字で判断。数字がゼロに近いと近視弱い。マイナス6ジオプタより強い(数字大きい)あたりからコンタクトが必要。ゼロからマイナス3ジオプタまでが軽い近視、マイナス3ジオプタからマイナス6ジオプタまでが中等度の近視とされています。

●乱視の度数はCの次の数字で判断。ゼロに近いと乱視弱い。乱視が少々あっても気にしないでいいでしょう。

●若い人で矯正視力が1.0出ていない人は眼にケガとか病気の可能性あり

●眼鏡の度数とコンタクトの度数は違う結果になる

これで説明はおわりです。全部読んでくださった方、ありがとうございました。
(98.2.20執筆、03.11.07更新)

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