病院とドイツ語の悲劇

deutchland 目の健康

病院とドイツ語の悲劇

日本での西洋医学の研究はドイツ語を基礎として始められました。ゆえに日本の医学界においては現在もドイツ語が学会標準の地位を確保しております………….というのは真っ赤な 「うそ」 です。
deutschland
ああ、なんと病院に「ニセ」ドイツ語の多いことよ!


こんなことでは音楽業界、アパレル業界の横文字文化を笑えないぞ!

カルテにクランケにハルンにエント….ステルベンにマーゲンにゾンデにムンテラにクレブス…どうして、この病院の業界て妙なカタカナがあふれてるんでしょうか?

しかも、こういうカタカナが由緒正しいドイツ語、だと信じられてることも多いんですが、とんでもないです。
病院の業界も他の業界と似たりよったりで、外来語日本語のチャンポンがそこらじゅうにあふれているんです。
「ハルンバッグ」=ドイツ語の「尿」と英語の「袋」だったり
「マーゲンチューブ」=ドイツ語の「胃」と英語の「管」だったり、こりゃもうバラバラ。(それで良いのだという、強硬な開き直り説もありますが。)
「ハウスマヌカン」(英語とフランス語、いや死語?)もびっくりです。
なおさら悪いことに、これをカルテに書くとラテン語、ドイツ語、英語が入り乱れて、アルファベットの略号になると

MK, Ent, IABP, MT, IC, LP, SP, EP, 45rpm,… ??

…さっぱり誰にもわからない。

筆者の極秘調査によりますと1998年の日本では、
英語の単語が書ける医者……100%
英語で文章が書ける医者…….60%
英語で会話ができる医者…….40%
ドイツ語で単語が書ける医者…20%
ドイツ語で文章が書ける医者….4%
ドイツ語で会話ができる医者….2%
のようです。(ええと、数字はみな感覚だけで書いてます)

どうしてそれなのに、無くならないドイツ語もどきの業界用語!!!

理由1…先輩医師が使うと後輩もそのまま使う
理由2…どこか業界用語にはしぶい響きがある
理由3…患者に秘密で会話をかわしたい需要が根強い
理由4…日本語より英語ドイツ語が格調高い感じぃ??(語尾上がり調子で)
理由5…漢字を書くのがいやでつい略語に走る。(あ、これ筆者です。)
理由6…その単語にあたる日本語ができない
理由7…カタカナ語がすたれるより早く、次の新しい英語が入ってくる

こういうわけで、文句を言い続ける筆者、平野でさえも毎日カルテには英語と英語の略号をかかずには生活できないのです。でもねえ、どこか気持ち悪いです。せめてもの努力として僕はドイツ語とラテン語をやめました。あ、すみません、「カルテ」がドイツ語でした。(注:あとでわかりましたが日本で呼ぶカルテはドイツ語Karteとは別の物をさしているのでした。下記参照。)え?「めだまカフェ」はどうかって?
カフェはフランス語だけどまあイギリス、アメリカでもよく使われて「英語に溶けこんだフランス語」と考えていただければ…ははは。病院の業界用語をくわしく知りたい方は別冊宝島、などに何冊か病院のウラ話をとりあげたものがありますので読んでみてください。いや僕が書いたわけではないですが。

「メス」はオランダ語であった(98.6.17)

何年か医者をやってましたが、手術用の「メス」は英語じゃないからドイツ語かなと勝手に想像していました。ところがどっこい。ドイツ語ではMesserという言葉なんですね。語尾が変化しても「メス」とはいいがたい。でwebでしらべると「メス」がオランダ語というのがわかってしまった。wwwでオンラインの辞書でも英語knife-オランダ語
Mesとなっている。英語もknifeだったりscalpelだったりいくつかあるけど、Mesはオランダ語なんですよ。日本で頭に英語をくっつけて「ディスポーザブルメス」とか「ダイアモンドメス」とか言葉を作ってるのはかっこ悪いですねえ。「ハウスマヌカン」現象がここでも起きてます。

「ピンセット」もオランダ語であった(99.8.31)

英語についての軽い読み物を一冊みつけました。成美文庫「楽しみながら覚える英語雑学辞典」松本道弘著、543円、ISBN4-415-06833-2。おすすめです。この本の115ページに「『ピンセット』は英語ではなかった?」という項目があり、オランダ語pincetから日本語のピンセットが生まれたのだろうと書いてあります。ちなみにピンセットにあたるのは英語でforceps。こういうところにもオランダ語が生きているとは、江戸時代の医学者がオランダから学んだからでしょうかね。

「ピント」「スコップ」もオランダ語(2003-2007)

カメラの撮影で使う言葉、「ピント」は日本語ですが、これは英語では「focus」に相当します。写真道場の「一眼レフって何だろう ?」によればオランダ語”brandpunt”が語源のようです。
またブログ記事「プローブとゾンデ」を見ると、「シャベル(shovel)英語、スコップ(schop)オランダ語、ゾンデ (Sonde)ドイツ語」など雪崩レスキュー用具の説明があります。
(03.07.23)

オランダ語関係の参考サイト:(2003年更新)

「オランダ語について」
—1stトランスビューロー社の解説。オランダ語の例としてビール、ハム、メス、などをあげています。
オランダ語のヒミツ・スペースアルク
—なんと「ランドセル」「半ドン」「ポン酢」もオランダ語由来のようです。

「日本(語)のオランダ 」—オランダ語関連情報が豊富。
オンライン英語オランダ語辞書
—これで”Mes”や”pincet”を探してください。

オンライン多国語辞書
—日本語はないけれど西欧言語の間でいろいろ簡単に訳語を探せます。
ラーフル考—これは力作。黒板消しラーフルと蘭学について詳しい。
にしてつニュース、ラーフル—同じく「ラーフル」の考察
Wikipedia 「オランダ語」—日本のカタカナになったオランダ語の用例が多数。

“do”はラテン語dittoだった(98.6.19)

雑誌「日経メディカル」1998.6月号p61を見ると”do”はラテン語ditto(「前回と同じ」の意味)の略であると書いてあります。いやあこれも知りませんでしたね。dittoは偶然インターネットPPP接続の設定で知った単語でしたが、カルテのdoがdittoだったとは驚き。英語のdoじゃあ繰り返しの意味はないはずです。はい。ということで、ここまでラテン語が残っていたとは。おそるべし慣習の世界ですね。
(以下2006年追記。コマンドのdittoはMac OS Xでも便利なようです。
Mac OS X MemoHFS+のdmgイメージの作り方などを参考に。)

「カルテ」はドイツで「診療録」の意味ではなかった(98.6.29-98.7.6)

医療記録の開示をすすめる医師の会
—-このサイトの中で、 「「カルテ」は「診療録」の誤り

という記事があります。なんと、ドイツ語のカルテには診療録という意味はなかったんですね。カルテ(Karte)は単なるカードをさします。では、ドイツ人はあの診療録をどう呼んでいるのでしょうか?
筆者が調べてみました。ドイツの病院サイトにe-mailでたずねてみると…。返事がきました!内科医のHinzmann先生から「診療録はPatientenakteですよ、救急患者のように書き込む情報が少ないときはKarteという一枚のカードに書く事もあるけれど普通の診療録はPatientenakteです」とのこと。また眼科医のWoerle先生から「診療録はPatienten-AkteまたはKranken-Akteです、昔は1枚のカードに患者の情報がみな書き込めたかもしれないのでその言葉が日本に「カルテ」と伝わった由来ではないか」とのことでした。感謝。ということで「カルテ」は用法の点で和製ドイツ語ということがはっきりしましたね。いやあ「カルテ」だけはまっとうなドイツ語と信じていたのに、残念です。つまり日本の病院用語でちゃんとしたドイツ語って皆無なんでしょうか?

「ザール」(saal)はドイツ語では「部屋」だった

東北地方では手術室を指すのに「ザール」(saal)という
言葉を使うようです。ドイツ語では特に手術室ではなく「部屋」の意味です。
今だと
Googleで手術室 ザールで探すと
いくつか見つかりますね、ザールという言葉。残念ながら西日本で仕事をしている筆者ヒラノは
耳にしたことがありません。東北大学病院、山中先生から教えていただきました。
山中先生ありがとうございます。(2007.3.27)

ドイツ語が日本の医学界に取り入れられた歴史
いくつかの資料で、日本の医学界がドイツ、イギリスから学んだ事が書いてあります。
(ここではオランダの事は別とします)
「脚気と悪者森鴎外」—-これは面白い。脚気という病気の原因がわからない時代、日清戦争日ロ戦争で数万人の人間が脚気で亡くなったこと、医者として森鴎外がやった失敗などを詳しく解説。

「陸海軍における脚気の問題」—–森鴎外が反麦飯論の誤りについて公式に認めることはなかった点が書いてあります


その他の医療用語、病院俗語(2000.7.26補足)

たとえば「アウス」が妊娠中絶、「マーゲン」は胃、「クレブス」が癌、「クランケ」が患者というふ
うな俗語はたくさんありますが、なかなかまとめて書こうとすると体力が必要ですの
でここではリンクをふたつだけあげておきます。

●医療用語としては お口の健康相談室の中に、よくまとまった 「医療用語集」があります。これはすごいです。(デンタルオフィスみなと)(2014年URL訂正)
●医学俗語集として、冨岡譲二さんtomioka@nms.ac.jpの作られた、

「カタカナ医学俗語集(救急医療編)」
これも力作です。(2003年URL訂正)
●「ハウスマヌカン」の呼び方は
資料1や、
「死語の墓標」などをどうぞ。(もはや2007年の時代ハウスマヌカンの言葉が使われなくなってきましたねえ。98年頃はよく見かけたはずなのに)
●ブログではしょちょうの日記「ドイツ語の氾濫する業界」がドイツ語を取り上げています。
●看護用語中心、名古屋方言中心に「看護のことば」五十音順も楽しめます。現場の知恵あり、深い分析あり、ドイツ語用語、オランダ語も多数収録。表紙はMac.GPS.Perlです。(2007.3月発見)

●論文として「医療者間で使われるドイツ語隠語の造語法…」(PDF書類)(江藤裕之。長野県看護大学紀要)がネットで読めます。カイザー、ムンテラ、オーベン、オーベーなど深く分析した力作です。
カタカナを日本語に言い換えようという提案

2003.4.25に国立国語研究所
の「外来語」委員会で、
「 「外来語」言い換え提案」
が発表(その後4回)されました。
「インフォームドコンセント」を「説明と同意」「納得診療」に言い換えようという
提案があり、めだまカフェはこの日本語案に賛成です。他にも「デイサービス」(和製語)、「バリアフリー」など医療、介護関係の言葉が多く、ためになります。2003年公布の「個人情報保護法」は「プライバシー法」でなくて日本語で本当によかったと感じます。(2003–2006年更新)

(1998.6.18作成、2014.4.28更新。気がついたら15年もこの文章を世間にさらしていますが、これでいいんだろうか)

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